第4章 4
「…お久しぶりです」
ゆっくり息を吸って、久しぶりの挨拶を交わす。
「もう本番30分前じゃないの?」
「本番といっても、私の出番はまだまだ先なので、楽屋にいても緊張するだけだし、体を動かしてたんです。いつもはあんまり緊張しないんですけど、今日はなんだか落ち着かなくて…。何ででしょうね?」
「俺が聞きに来たから?」
朝日奈さんはいたずらっぽい笑みを浮べている。
久しぶりのからかいに顔が熱くなる。
「そ、そんなことは!…でも普段歌ってるのを聞いてない人が聞きにきてくれるっていう経験は初めてだからそうかもしれないですね…」
「じゃあ、俺が純粋なファン一号になるかもしれないってわけだ。楽しみにしてるよ、ma cherie」
聞きなれない言葉で何かを言いながら、朝日奈さんは頭を撫でてくれた。