第1章 1
「はぁー…」
昼休み。学校の近くの行きつけのオープンカフェで大きなため息をつく。
周りは上手な人ばかりだ。
今日のオペラの演習も、専攻のレッスンも、何もかも頭一つ抜けられない。
自分の未熟さばかり見せつけられ、毎日昼にはこうしてため息をつきながら反省会をするのだ。
「相席、いいかしら?」
「Beh…?」(えっと…?)
久しぶりに聞いた日本語に対して出てきたのはイタリア語の感嘆詞だった。
顔をあげると、そこにはオレンジがかった明るい茶色の長い髪の綺麗な女性。
席はまばらに空いているのに、なぜ相席なのだろう?
「か、構いませんけど…あの…」
断る理由は特に無いので相席を許すが、不思議であることには変わりない。
「あなた、そこの音楽院の留学生?」
「そうですけど…なんでそれを?」
「やだ、今朝あなたと肩をぶつけてしまったの、覚えてないの?」
そう言われ、目を閉じて今朝のことを思い出す。
「…あっ」
オレンジがかった明るい茶色の長い髪。
今朝チラリと見えたあの髪と同じだ。
「…そ、その節は大変ご迷惑をおかけしました…!」
机に頭をぶつけんばかりに頭を下げる。
「いいのよ。そんなことに文句つけにきたわけじゃないから」
お姉さんは軽く手をあげてウェイターを呼び、エスプレッソを注文した。