第3章 3
心地の良い冷たさだった。
無理にアドバイスされるよりも心地がいい。
女心のわかる朝日奈さんだからそう言ってくれたのだろうか。
でもきっと、その優しさに頼ることはないだろう。
「朝日奈さんって優しいんですね」
「あぁ。そう言ってくれる人もいるね」
朝日奈さんは私を透かしてどこか遠くを見つめていた。
胸の奥がピリリと張り詰めるような気がした。
「朝日奈さんは一体…」
私は言いかけて首を振った。
「何?」
「いえ、なんでもありません」
私はニコリと笑って見せた。
せめて、演じるものとして、美しく。
「実は今度…と言ってももうちょっと先の冬なんですが、音楽院内でやるコンサートに出演するんです。…ぜひ朝日奈さんに来て欲しいなって…。もちろん、楽しんで欲しいし楽しませるつもりだけれど…創作するひとの目線から私の歌がどう聞こえるのか…」
取り留めもなく言い訳を並べる。
「ありがとう。ぜひ行かせてもらうよ」
私はその答えに少しだけ胸が高鳴った。
「さくらみたいな人、昔の友人にいたな。どうにも私のまわりの友人は俺を都合良く利用してくれる」
朝日奈さんは、ふぅ、とため息をつきながら腕を組む。
「そ、そんなつもりは…いえ、そうですよね…朝日奈さんにはつい甘えてしまって…」
「そんなにへこまれると逆に困るな。冗談。楽しみにしてるから」
朝日奈さんは困ったように笑った。
「さくらだけが出演するんじゃないだろう?芸術鑑賞も小説家としてしておくべきことだし、アマチュアの演奏会は初めてだからきっといい刺激になる。いろんな人の演奏を一気に聞けるのはなかなかない体験だろうね」
コンサート、頑張って。
そう言って朝日奈さんは私の頭を撫でた。
はじめてされたときは恥ずかしさと緊張でいっぱいいっぱいだったが、次第にその手の暖かさに安心感を、今では頭の上の熱が離れれば、切なさすら感じてしまう。
「いつのまに、そんな顔をするようになったのやら」
朝日奈さんは少しだけ苦しそうな顔をしていた。