第3章 3
「何が、ですか?」
「…いや、なんでもない。忘れて。…さて、もうこんな時間だけど、どうする?泊まっていく?俺は構わないけど」
そう言われ、時計をみると8時を回っていた。
「泊まっ…!?帰ります!ちゃんと帰ります!」
「あれ。そういう危機感は一応持ってるんだ」
「な、なにを言ってるんですか!もう!明日は学校なんです!」
顔を伏せながら本を突き返す。
「ありがとうございました!面白かったです!」
「どういたしまして。送ってくから、膝にかかってるブランケットはそこらへんに置いといて」
「あっ…」
いつの間にか私物のように膝の上にかけていたブランケットの存在を思い出す。
ますます顔が熱くなる。
「本当にウブだね。彼氏とか今までいなかったの?」
「いっ、いませんよ!悪いですか!」
「こんな素敵な子を放っておくなんて、日本の男子はもったいないことをするんだね」
「すて…!?」
「ほら、いくよ」
朝日奈さんは車の鍵を振りながら、玄関に向かった。
私は慌ててそれについていった。
赤い車は滑らかに発進し、夜のイタリアの街を走る。
ぐるぐると今日の出来事が頭の中をめぐる。
「楽しいデートだったよ」
「デート…。デート!?」
「俺はそのつもりだったけど?」
もう心臓が飛び出そうだ。
「顔によくでるよね。何考えてるかすぐわかっちゃう。心臓が飛び出そうって顔してるよ。ドキドキしてくれたの?」
「もう、からかうのやめてください…」
「そんな風に言われたらやめられないなぁ」
このモードになったら何を言っても無駄だ。
私は出来るだけ無表情になるようつとめた。
「あっ。だんまりモードになっちゃった。面白くない」
デート、デート。
そんな言葉が頭をぐるぐると回る。
全く意識していなかったが、男の人の部屋に上がり込んでしまったのだ。
考えれば考えるほど顔が熱くなる。
私は頭を振って、街並みを眺めることに徹した。