第3章 3
「いいんじゃない?真面目で一生懸命な子は応援したくなるな」
とても優しい声色だった。
導かれるように朝日奈さんの顔をみると、優しく微笑みかけてくれている。
「…ありがとうございます。嬉しいです。結果が出るように頑張ります」
「あんまり嬉しくなさそうだけど?」
「…うーん。朝日奈さんってなんでもお見通しなんですね」
応援されるのは嬉しい。本当にこれからもっと頑張ろうと思える。
でもそれはプレッシャーでもあるのだ。
応援してくれる人がいるなら、結果を出さなくちゃいけない。それが一番の恩返しだから。
でも今の私はどうだろう?
結果を出せるだろうか。
きっと出せない。
なんで私は、歌を歌うのに、歌えないのだろう。
虚しく楽譜を撫でるだけなんだろう。
録音して聞くたびに、そう思う。
SDカードに保存している自分のレッスンの記録や試演会、自分の演奏会の記録はどれを聞き返しても他の学生に劣るのだ。
音程やリズムのいわゆるソルフェージュは完璧かもしれない。
でも何かが物足りない。歌を歌として満足して聞けるものが足りていないのだ。
「無理に言葉にして俺に伝えなくてもいい。芸術家に悩みはつきものだから。話したくなったら聞くよ。でも聞くだけだ。俺は小説家だから」