第3章 3
「ふぅ…」
軽く息をはき、読後感に身を浸す。
スカッと胸のすくような感じではないが、誰にでも持ち得る人の暗い面を鮮烈に描き出した作品だった。
銀色のナイフをまっすぐ心臓に突き立てられたような気持ちにさせられる。
「あー…終わった…」
ぐっと伸びをして、朝日奈さんはくるりとこちらを向いた。
「読み終わった?」
「はい。とても面白かったです。こういう小説は読んだことなかったので、とても新鮮でした」
「そう。どう思った?」
朝日奈さんがコーヒーをいれなおし、私の横に腰掛ける。
「…まだまだ、私は人の気持ちがわからないんだなって…。犯罪者がわの気持ちなんて考えたことなかったんです。オペラでそういう脇役の悪人、悪女役をもらったことは何度かありますが、きっとその演技はペラペラだったんだろうなって、ドキッとさせられました。今日、この本に出会えて本当に良かったです。きっと、歌の糧になるから…」
「真面目だな」
「よく言われます」
私は苦笑いを浮かべた。
君の音楽は真面目過ぎる。
君は本当に時間に真面目だね。
イタリアに来てから何度そんな風に言われたか。