第2章 2
お金を机の上において、朝日奈さんは近くを通りかかったシェフらしき人と話し込んでいる。
程なくして、先ほどのウェイターさんがやってきてお金を下げ、レシートをもってやってきた。
すると朝日奈さんはシェフらしき人と話しながら立ち上がった。
私は急いでそれにならって立ち上がる。
「さくら、今日の料理はどうだった?」
朝日奈さんとシェフらしき人は笑顔でこちらを伺っている。
「え、あ…Era tutto buonissimo,Grazie!」(どのお料理もとてもおいしかったです。ありがとうございました!)
「Buono,Grazie a Lei!」(それはよかった。こちらこそありがとう)
シェフらしき人は優しい笑顔で私にもわかりやすく、ゆっくりとそう答えてくれた。
朝日奈さんにエスコートされながら店を出る。
「よくできました」
素敵なレディだったよ、と車に入るとすぐに大きな手のひらが私の髪を柔らかく撫でた。
「今日は楽しめた?」
真っ赤な車が優雅に滑り出す。
「はい。とっても楽しかったです。ありがとうございました」
「そう、それならよかった」
窓の外ではイタリアの夜の街並みが後ろに流れて行く。
「あ、そういえば言い忘れてた」
朝日奈さんは唐突に何かを思い出したようにそうつぶやいた。
「言い忘れ…?なにかありましたか?」
そう聞きながら朝日奈さんの方を向く。
車は赤信号で止まってしまった。
朝日奈さんはこちらに顔を向け、私と目を合わせる。
「さくら、とっても綺麗だよ」
薄暗く赤く照らされた表情は優しげで、切なさすら感じる。
青信号にかわり、朝日奈さんは運転に集中してしまった。
思い出したかのように心臓が暴れまわる。
先ほどまで止まっていたかのようだ。
顔が熱い。
それから10分ほど、お互い無言のうちに私の住むアパートについた。
朝日奈さんが先に運転席からでて、助手席のドアを開けてくれた。
「あっ、ありがとうございます…」
先ほどのことを思い出してしまってなんだかぎこちない。
「どういたしまして」
朝日奈さんは私が車から離れたのをみてドアを閉め、鍵をかける。
そのまま部屋の前まで送ってくれた。