第2章 2
私はオッソ・ブーコを一口食べる。
しっかり煮込まれた肉は柔らかく、トマトの酸味の効いた甘さが程よい。
頬が落ちそうなほど美味しくて思わず笑顔になった。
「さくらはなんでも美味しそうに食べるね」
「あんまり量は食べられないんですけど、やっぱり食べる事は好きです。あの、ありがとうございます。こんな素敵なレストランに招いてくださって」
どういたしまして、と朝日奈さんはうれしそうに笑った。
そんな笑顔は何度も何度も見ているはずなのに、心臓がドキドキと早鐘をうち、会話のキャッチボールがうまくできない。
そんな妙な沈黙を破るかのようにドルチェが出された。
「わぁ。美味しそうなプリン!これはなんですか?」
「これはボネ。チョコレート風味のココアプリンだよ」
一口食べるとチョコレートの甘さが口に広がり、ビスケットの食感が楽しい。
「こんなドルチェがあったんですね。私、お菓子とか甘いものあんまり食べないのでとても疎くて…なんだか損してました」
食べ終わる頃に香り高いエスプレッソがだされる。
本当にちょうどいい頃合いに料理や飲み物がでてくるのだ。
高級レストランの気遣いの素晴らしさに少し感動する。
食後酒のサクランボのリキュール、マラスキーノを一口。
「本当に美味しかったです。朝日奈さん、改めてありがとうございます」
「俺は美味しそうに食事するさくらが見れて大満足だよ」
「か、からかわないでください」
女の人の姿で言われるのと、男の人の姿で言われるのではわけが違う。
いつも以上に心臓が跳ね回っている。
朝日奈さんが小さくてをあげると、ウェイターさんが金額を書いた紙をもってやってきた。
ウェイターさんはその紙を席においてすぐにどこかへ行ってしまった。
「あれ?」
「イタリアはお金を払うのにちょっと時間がかかるんだよ」
朝日奈さんはそう優しく教えてくれた。
いろんな文化の違いに触れてきたつもりだが、まだまだ知らないことだらけだ。