第2章 2
店にはいると、ディナーを楽しむ華やかな人々。
触れたことのない雰囲気にすこし緊張していると、朝日奈さんが私の肩に軽く触れる。
「みんな楽しんでいるんだよ。いつもよりはお上品にするべきだけど、本質は楽しむこと。いいね?」
こそ、と小さな声で聞こえた言葉は私の緊張をじんわりとほぐしていった。
席につき、ほっと一息をつく。
「慣れない?」
「…はい。場所もですが、その…」
「俺にも?」
俺、という一人称。
当たり前のことだが、なんだか緊張してしまう。
「その…えっと…そんな、感じです…」
「そっか。それは嬉しいな」
やはり笑った顔は変えられない。
男の人の姿でも、その笑顔は女装している時と同じ、中性的で綺麗な笑顔なのだ。
食前酒と前菜が出される。
「わぁ…シャンパンですか?」
薄い金色に輝く透明な液体には、小さな泡が細かく立っている。
「これはアスティだよ。イタリアの北の方にあるアスティで作られた発泡ワイン。シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で作られた発泡ワインの事で…って、こんな話はどうでもいいか」
「いえ、そんなことありません。朝日奈さんは物知りなんですね」
「でないと小説は書けないだろう?」
確かに、と納得し、静かに乾杯を交わす。