第2章 苦しみを忘れた少女
「かっかっ…かわっ…!! ///」
「…え?」
私は恥ずかしさでどうしようも無くなって、ベットに素早く乗り、布団にモモモっと潜った。
完全に掛け布団で顔を隠す。
「…えっ。えーっと…?」
へクターの動揺する声が聞こえる。
「可愛い」その言葉は、フィルが私に初めて声をかけた時の言葉だった。
初対面の私に、いきなり一言「可愛い」だ。不謹慎すぎる。
でも……嬉しかった。その時の私には勿体ない、温かな言葉だった。
その…フィルが………。
あいつに殺されるなんて…っ!!
「麗華…? お前…! 大丈夫…か?」
「…っ……」
へクターの心配をする声が聞こえる。でも、そんなことはどうでもいいくらい、私の頭の中はグチャグチャだった。
「っ! …っ…」
布団の中で、私は嗚咽をもらしながら泣いていた。体は小さく震えていて、へクターもそれは分かっていたと思う。
涙をぬぐう事も出来ず、ただひたすら涙を流し続ける私の背中を、へクターは優しく撫でた。布団越しにつたわる温かな手。
「…っ……っ…ウゥっ……」
ポロポロと涙は枯れることを知らないかのように流れ続ける。
フィル…。最後まで気持ちを伝えられなかったフィル…。
私は泣きやんで気持ちが落ち着くと、布団から顔を出した。
へクターが「大丈夫?」と優しい笑顔で私に聞いてくる。
「………」
私が無言でうなずくと、へクターは「そっか…」と視線を落とした。
「へクター…。あの…」
「…? 何?」
上半身だけ起こして、へクターに真剣な顔で話しかける。
「…フィルは……事故死じゃないの…」
「?!! フィル…が?!」
目を見開いてこちらに少し身を乗り出すへクター。私がうなずくと、体を元に戻した。
「ケイラスが……殺した…!」
「っ?!!! け、ケイラスって、あの?!」
「そう。それと、この傷を付けたのも、ケイラス…」
昨日やっと包帯を取ってもらえた、その傷口に指をさす。
「…!! 一体…何のために…っ!」
「権力のためじゃないかって私は踏んでるけど…」
私もへクターも黙りこむ。
でもその沈黙はそれほど長くも無かった。
「…。話してくれてありがとな! 麗華!」
「え…っ?」
へクターはそう言うと、私の部屋を勢いよく出ていった。
「…?」