第2章 苦しみを忘れた少女
ミルトside
明日から麗華様の復帰か…。だからといってあまり無理はさせられないな…。
昨日から痛みはほぼ感じなくなったと仰っていたが、直接的に刺激を与えるとまだ痛いようだし…。
「私達が出来る限りのサポートをしなければ…」
自分でそう言って意気込んだ時、廊下の方で、麗華様が一人で「ウンウン」と唸っているのが見えた。
…? まだミルクティーを飲みたいと仰る時間では無いのに…?
近くまで行き「麗華様?」と話しかける。
「どうなされましたか?」
後ろから話しかけたせいか、麗華様はビクッとしてこちらを向いた。
そして、数秒こちらの方を見ると、突拍子もない事を、しかも敬語で聞いた。
「あの…その……なんで名前を知ってるんですか?」
私は完全に固まった。
その時に、一番最初に思いあたったのは記憶喪失だった。
へクターからの情報だと、フィルさまを殺したのも、麗華様に傷を負わせたのもケイラスだと聞いている。
つまり、それらのショックによる記憶喪失と思ったのだ。しかし、ご自分の名前は覚えている。…部分的に覚えているのだろうか…?
苦しみは、感じている間だけ辛い。それを忘れてしまえば、誰しも普段通りに暮らせる。
痛み、苦しみ、辛さ、酷さ、憎しみ、怒り、悲しみ。全て、忘れてしまうほど楽なものは無い。
そのため、人はあまりにも辛い事があると、自動的にそれを消してしまうことがある。リセットをするだけで、救われた気分でいる。
…人間は楽に生きようとする。
過去をなくすだけで自分だけ幸せになったつもりでいる。
過去の私も…そうだった。