第2章 苦しみを忘れた少女
麗華side
今日も何事も無く終わった…。
大きく伸びをしながらそんな事を思う。
「…ミルトにミルクティーでも入れてもらうか…」
そう言いながらミルトを探しに行こうとしたその時…。
ガチャッ。
「?! 誰だ!」
扉から誰かの入ってくる音がし、勢いよく振り向く。
「おひさしぶりです。…麗華様…」
「…?!! お前…は…。ケイラス?!」
不気味な笑みを見せながら「ふふふっ」と笑って見せるケイラス。その右手には剣が握られている。
「なぜここに…!」
「そんなこと……どうでもいいでしょう!!」
その途端に、ケイラスは剣を私に向かって振り下ろした。
「?!!」
私は少し反応が遅れるも、難なくそれを交わす。しかし、ドレスの裾までは計算が出来ていなく、ビリビリっと引き裂かれる。
「…剣術を習っているというのは本当だったのですね」
「まぁ…ね…」
息を吐きながら、私は冷や汗を流す。
……どうするか…。いくら私の方が運動神経が高くても、相手は武器を持っている。素手では勝てない…。…いや。何とか行けるか…?
「ふふふっ…ふふっ」
「…っ」
やるしかない…!
ヒュンっと私のすぐ横で剣の風を切る音がする。
全ての技をすんでのところでかわし、後方へ下がる。
…このまま何とかしのげれば…。
「麗華様。知っていますか?」
ケイラスは剣を振りながら唐突に口を開いた。
「? …何を…だっ?」
「…夫、フィル様を殺したのは誰か…」
「…?!!!」
私はその名を聞いた瞬間に体が固まった。
…フィル……は、事故死じゃなかったのか…?
「ふふっ。考え事ですかっ?!!」
「?! うぐぁっ!!!!」
その隙をケイラスは逃さなかった。
血飛沫の色が鮮やかに舞う。黒っぽい赤色は、床に飛び散り、返り血としてケイラスのあやしげな笑みにも付着している。
「ああ゛っ…」
ドクドクと波打つ感覚が、体から離れない。
「フィル様を殺したのは……私ですよ」
「い゛っあ゛う゛っ!」
ケイラスの「私ですよ」という言葉が脳裏にこびりつき、血の色と重なって意識が遠くなる。
「…あぁ゛っ…」
「それでは…また会う日まで…」
ケイラスが部屋から出る音がした。
その直後に、誰かが違う扉から部屋に入る音がする。
そこで私の意識は途絶えた。