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melancholia syndrome

第6章 先生と生徒


「九条?」

私がずっと黙っていかからか先生は顔を覗き込む。

ふいに近づく顔に思わずドキリと胸が高鳴る。

「どうかしたのか?あんまり楽しそうじゃないけど…」
「そんな事ないです!すっごく楽しいです!」

勘違いさせまいと慌ててそう言うと先生は安心したのかまた笑ってくれた。

「私、さっきまで悩んでいる事があって…少し憂鬱な気分になってたんです」

"悩んでいる事"

それは先生の事だったが敢えて伏せて言う。

「でも、ここで先生と花火を見れて何だかスッキリしました」

"先生"と"生徒"という関係が変わる事はない。

私なんかが届くような人じゃない事も分かってる。

それでも伝えたい。

決して交わらない道だとしても私は後悔だけはしたくない。

意を決した私は真っ直ぐに先生を見つめる。

お面越しの先生の表情は私には伺えない。

でも、今はそれが有難く感じてしまう。

お面じゃなかったら緊張して何も言えなかったと思うから。

「あの…!先生」

花火を見つめていた先生は私を振り返った。

「ん?」

不思議そうなその声からは今から私が告白するなんて微塵も感じていないと思われる。

それが悲しいのか苦しいのか、それともこの空気が有難いのか。

上手い言葉なんてない。

ただ、気持ちを伝えたいだけ。

「私…先生の事が……」

トクン、トクンと自分の心臓の音が大きくなるのが分かる。

「好きなんです」

その言葉と同時に一際大きな花火が上がった。

「…。」

しばらく先生は無言だった。

ただ、じっと私を見つめる。

怖い…。

振られてしまう覚悟はあったはずなのに今更逃げたい衝動に駆られてしまう。

「…九条」
「は、はい…」

先生は少し困った様に笑う。

「ごめん、何て言ったか聞こえなかった」

へ…?

先生はアハハと笑う。

そ、そんな…。

勇気を出して頑張って言ったのに…。

ガッカリする私に対してどこか安心する自分もいた。

やっぱりこういうのは勢いで言うものじゃないのかもしれない。

「さーて、花火も終わったし帰るか」

先生はそう言っておもむろに立ち上がり歩き出す。

「ま、待ってください!」

私も急いで追おうと立ち上がった。

「…俺の事なんか好きになっちゃダメだよ」

先を歩く先生が呟いた言葉は私には届かなかった。
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