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melancholia syndrome

第4章 波乱の一泊二日


「ん……」

見知らぬ天井が目に入る。
私が横たわっていたのはベッドの上だった。

ゆっくりと起き上がると自分の右足が目に入る。

ぐるぐるに巻かれた包帯はしっかりとテープで止めてある。

ようやく私は何があったのかぼんやりと思い出した。

ガチャ

ドアが開く音に目をやると和泉先生が部屋に入って来た。

「ん?目、覚めたのか」

先生はベッドの横の椅子に腰をかけると私に体温計を手渡した。

私はそれを受け取ると自分の脇に刺し込んだ。

「体、痛いとこないか?」

先生は気遣う様な眼差しで私の顔を覗き込む。
先生の髪はまだ濡れていた。

「大丈夫です…」

私は俯いて先生の質問に答える。

すると先生ははぁーっと大きな溜息を吐いた。

「あのな、君は山に心得がある訳じゃないんだから勝手な行動するなよ!五十嵐達がどんだけ心配したと思ってんだよ、東雲なんかはわんわん泣いて大変だったんだぞ」
「ごめんなさい…」

返す言葉も無く私は更に俯くしかなかった。

先生は何も言わずにもう一度溜息を吐くと椅子の背にもたれかかった。

「…。」

何も言わなくなった先生を見て、私も黙るしかなかった。

先生、怒ってるよね…。

再び謝罪の言葉をかけようとした時、先生の言葉が遮った。

「俺、心臓止まるかと思ったんだぞ」
「えっ…?」

先生は真剣な目で自分の手で拳を作り膝の上に乗せた。

少し前かがみになった先生の顔には髪がかかって、その表情は伺えない。

「最初に九条を見つけた時、倒れてて…ぶっちゃけ死んでるかと思ったわ」
「あの、勝手に殺さないで下さい」

真剣な話をしているのは分かっていたが、そう言わずにはいられなかった。

「運が悪ければ死んでたんだぞ」

それでも先生の声音は変わらない。

「俺はさ、教師だし生徒の人生に口を出せるなんて思ってないよ。でも、九条はもっと自分自身を大事にしろ」

クラスメイトとは違う低い声が私を諭す様に言う。

「もっと周りを頼れよ。俺を、頼れ」
「______…」

自分の頬に熱い何かが伝うのが分かった。

とめど無く流れる何かは私には止められない。

「わ、たしはっ……いま、まで…ずっとっ……ひと、りで……口下手でっ………どんくさくてっ……」

頼れ、その言葉にこんなにも力があると思わなかった。


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