第3章 知られたくない
すべての授業が終了し、チャイムと同時にぞろぞろと教室から出ていく人たち。中には机に座って、あきらかに教室に居座ろうとしている奴らもいるが、正直どうでもい。気にとめることも無く、教室を出ようとした時。
「おーーい! 理花ー!」
「?!」
突然の私を呼ぶ、しかも聞いたことのある声にビクリとして、そちらの方をゆっくりと見てみると、案の定、祥太さんがあの笑顔でこちらに手を振っていた。
すぐさま何か言ってやりたかったが、周囲からの「え…あの鳥飼さんが呼ばれてる……」といった、嫌な目線が刺さり、そんな訳にもいかなくなった。
とりあえず、急いで鞄の用意をし、逃げるようにして教室を出た。
出た後も「鳥飼さんってこの学校に知り合い居たの…?」のような、冗談でも嬉しくなどない言葉が教室から聞こえる。それを聞いて、私はぐっとこぶしに力を込めた。
私には高校一年生になったというのに、友人の一人もいなかった。別にそれをとやかく言う気もないし、その必要もない。はっきりと言うなれば、友達がいらなかったのだ。
まあ、友達をつくれるものならつくるし、なってくれる人がいるなら、もしかしたら…ってことはあったかもしれない。しかし、今までその両方とも、私にはチャンスは回ってこなかった。……いや。どうだろう。チャンスはあったかもしれないが、いずれにしろ私はそれを拒否しただろう。
―――知られるぐらいだったら、嫌われるぐらいだったら、
私はそれを、もともと無いようにしてしまえばいい―――
「おー来た来た!」
私が近くまで来ると、さきほどよりは小さかったが、それでもまだ大き目の声で、また手を振る祥太さん。
「この距離で手を振るって何か意味あるんですか…?」
明らかにふてくされた口調で言うと、祥太さんは二カッと笑って「行こ」と先に歩きだした。
いや、ってか私の言葉完全無視ですか……?