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ありがとうが言えなくて

第5章 初めて



 理花side

 洗顔剤や使い終わった歯磨き粉などで散乱し、お世辞にも綺麗とは言えない洗面台。そこの大きな鏡で、暗い顔をした自分の顔を覗き込む。

 「……酷い顔」

 左の頬。白いシップの下から覗く、青紫のはれたあざ。
 ポロシャツの袖のすぐそばにも、似たようなあざがいくつも。
 …腹部…肩…太もも…。見えないところに、その痛々しい痕は残っている。


 こんな『いかにも』な痕を祥太さん達に見られたら、私はどうなるのか。

 …分からない。だから怖い。
 彼らに知られるのが怖くて仕方がない。

 嫌われてしまうのが……怖い。

 恐怖心に負けて、別に痛みはどうってことなかったけど、学校を休んでしまった。

 …毎日楽しそうに過ごせている彼らが羨ましい。


 そう考えていた時だった。

 ピンポーン

 私の表情とはあまりにも合わない、明るいインターホンの音。

 「…こんなときに……」
 私はそう呟きながら、雑にそこにあったパーカーを着る。

 少し足を引きずりながら、玄関へと進む。

 「…はい」

 「! ……理花」

 俯き気味に玄関の扉を開けると、聞こえた声はそれだった。

 「?!!」
 何度この声に驚かされただろう。
 
 「っ理花ちゃん!」
 「理花!」
 続けて2人の声。無言でいるのは残りの2人だろう。

 私は下を向いていた顔を前に向けた。

 …やっぱり。

 「大丈夫か…?」

 そこには、心配そうな表情で立っている、祥太さん達の姿があった。

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