• テキストサイズ

ありがとうが言えなくて

第5章 初めて



 祥太side

 「景一にぃ!」
 二年生の教室前廊下。クラスメイトがザワザワと教室から出ていく中、会談の近くから、愛里の大きな声が聞こえる。

 「あ、愛里。どうしたの?」

 走って来た愛理に、俺の隣にいた景一は少し驚いた表情をして愛理に問う。

 「それが……。今日、理花来てないんだよね…」
 「理花が?!」

 俺が驚いて大きな声で反応をすると、後ろからマリアに小突かれる。

 「理花ちゃんの事になると、祥太はover reactionねぇ」

 ニヤニヤとした顔でこちらを見るマリアは、小さな声で「告っちゃいなさいよー」と笑った。

 「………無理だよ」

 俺がうつむきながら言うと、マリアは驚いた顔をした。

 「祥太にしてはnegativeね…。まぁ…仕方無いか」

 少し2人で暗い表情になっていると、愛理が「聞いてますか?! 2人とも!」と大きな声で言った。

 「で、やっぱり、休んだ理由って『アレ』かな…って………。だって、昨日特に体調が悪い感じじゃ無かったし……」

 「最近怪我も多かったしね…」

 愛理と景一の、兄妹2人で下にうつむく。

 「………今まで、首を突っ込まないようにってしてたけど……」

 俺はそう言いかけて、途中で言えなくなった。

 「……」

 これが、理花にとって、悪影響ではないだろうか。

 これ以上苦しめることになるのではないだろうか…。


 「…つまり、見舞いに行こう…と?」

 勇生が細い目で窓から遠くを見ながらそう言う。

 「…そう」

 俺が自信無さげに言うと、景一はたしなめるように言った。

 「僕は、個人の意見だけど…行ってみた方が価値があると思う」
 「meも。何もしないより、何かしたほうがいいわ」
 「2人に同じです!」

 続いてマリアと愛理が強い目でこちらを向いていた。

 「……勇生は?」

 まだ窓から遠くを見ている勇生に話しかけると、遠くから目を離し、下の方を勇生は向いた。

 そしてすぐにこっちを向いて、真っすぐな眼で言った。

 「……祥太、お前が決めろ」

 「…そっか……」

 俺はそう言って玄関へと足を進め始めた。

 後ろから慌てて付いてきたマリアが「つまりそれは」と俺の肩を叩く。

 「行くってことでいいのよね?」

 「…あぁ」

 マリアは俺が答えると優しく微笑んだ。
/ 31ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp