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ありがとうが言えなくて

第5章 初めて



 祥太さんや愛里と会ってから、2週間が過ぎた。

 私は最初のころよりもスムーズに会話をすることが出来るようになり、愛理ともそれなりに仲良くなれた気がする。

 ―――友達―――

 なぜだか、その言葉を考えるだけで、胸が苦しくなって、自分も訳が分からず涙をこぼすこともあった。

 今日もその中の1日だ。


 「……なんで…。なんなの…この感じ…。分かんないよ…………」

 願うことならば、誰かに教えてもらいたかった。この感情が何なのか。この涙の意味は何なのか。

 ―――私の脳裏で笑顔を見せる、あの少年は誰なのか。


 愛里や、景一さん、勇生さん、マリアさんに対して、いつも「あまりかかわるな」というサインが送られてきて、体調が悪いと偽って、家に帰ってしまう事もあった。

 だが、祥太さんは別だった。

 彼と居るだけで「もっとここにいたい」「もっと色んな話をしたい」と欲がでる。

 それでも、私の脳から発せられる「サイン」は止まらない。むしろ、祥太さんの事になると、それは大きくなっていた気もする。

 「……っ…。どうして…。何で……」

 涙も拭かずに両手を握りしめた時、不意に玄関の方から、扉の開く音が聞こえた。

 「っ?! お、おかえりなさい……」

 いつもよりも早い帰宅に、私はきごちない言葉を発した。泣いていたせいか喉が震えて、言葉を上手く言えなかった。

 涙をふかなきゃと、腕でごしごしと目をこする。

 すると、ガチャッという乱暴に扉を開く音がした。

 「……あんた、泣いてたの?」

 腕を戻して、すぐにそっちを向く。その瞬間…。

 バシィンッ!!!

 頬から伝わる強い衝撃と、大きな打撃音。ヒリヒリと痛む頬の痛みから、すぐにはたかれたという現実に気がついた。

 「私はメソメソする奴が嫌いだって言ってるよねぇ。家で泣いてんじゃないわよ!!」

 「お、お母さん……ご…ごめんなさい……!」

 「誰かに言ってないでしょうねぇ。言ったらどうなるか分かってるよね!!!!」

 次に感じたのは腹部への鈍い痛み。私は顔を歪ませて床に倒れこんだ。

「ヴッ……!!! 言って…無い……です…!!!」

 ドッ!!! ガッ!! ガンッ!!

 更に何度も続く腹部への痛み。まだ、裸足で蹴られているから、痛みは前ほどではない。が、痛いのには変わりなかった。
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