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ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない



 景一side

 「なあ、あれ何だと思う?」
 隣の勇生が、表情をゆがませながら僕をこずいてくる。
 「ん? あれ。マリアと理花ちゃんじゃん」
 「何か言いよってねぇか? マリア」
 そういえば、確かにマリアは理花ちゃんのほうに詰め寄っている気もする。
 「ねぇ? 誰? 誰なの? 好きな人教えて?」
 「いえっ…あのっ」
 近くに行くと、2人の会話が聞こえてきた。…会話と言うよりは、マリアの一方的なものにも見えるが…。
 「…うぅっ」
 理花ちゃんが非常に困った顔をしているところに2人で近づいてみる。
 「お前ら何やってんだ」
 勇生が大き目の声でそう言うと、マリアと理花ちゃんはこちらを向いた。その時の理花ちゃんの顔は、まるで救世主が現れたかのような妙な顔だった。
 「大丈夫? 理花ちゃん」
 「全然大丈夫じゃないです……」
 理花ちゃんがチラッとマリアを見ながら言うと、マリアは驚いたように理花ちゃんを見た。
 「えっ?! どこが? どこの調子が悪いの? お腹? 言って理花ちゃん!」
 「ちげぇし、原因お前だろ」



 理花side

 「あー。そうだったんだ。マリアは恋バナになるとすごいからねー」
 「ええっ私?! 私なの?! だ、大丈夫だよね?! 理花ちゃん!」
 「あんまり…」
 「えぇっ!」
 私がそう言うと、マリアさんは「そんなぁ、そんなことないよぉ…」とうなだれた。
 「ま、マリアは聞いておいて忘れる奴だけどな」
 「そ、そんな事ないわよ!」
 勇生さんは「じゃあ」と続ける。
 「景一の好きだった奴は?」
 「んぇ? えっ、えーっと……。だ、誰だっけなぁー…」
 「ほらみろ」
 つくり笑いをするマリアさんに、ジト目の勇生さん。っていうか、景一さんに好きな人なんていたんだ。
 そう思って、景一さんを見てみる。すると、自分のことを言われているというのに、永遠とニコニコしている。気にしないのか…? こんなこと。
 「だからむやみに聞くんじゃねぇよ」
 「はーーい」
 マリアさんはムスっとした顔でしぶしぶうなずいた。
 「じゃあさ」
 「あ?」
 直後すぐ笑顔になって、マリアさんは勇生さんに向いた。
 「勇生はWhoが好きなの?」
 「お前話し聞いてたのか?」
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