• テキストサイズ

ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない



 勇生side

 …。

 『鳥飼理花、一年です…』

 「……理花…か………」

 懐かしい名前だ…。懐かしいと言っても、2、3年前ぐらいまで聞いてた名前だがな…。

 「でも……。あいつは覚えてないみたいだったな…」

 結城という苗字を聞いて、ピクリとも反応しなかった。

 「記憶が…無いのか…?」

 あいつの写真の前で、そう呟いてみるが、少しむなしく感じるだけだった。



 「……亮。お前なら、どうする…」





 理花side

 日差しがまぶしく、手でさえぎりながら学校へ進む。去年はこんなに暑かっただろうか…。まだ朝方だというのに、毛穴という毛穴からは汗が噴き出てくる。
 「うぅ……」
 「……あっ! 理花ちゃーん!」
 暑さで表情を暗くした直後、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
 パッとそちらを見てみると、ミディアムヘアーをフワフワとさせながらこちらに走ってくる女の人―――マリアさんがこちらに手を振っていた。
 「あ、おはようございます…」
 「good morning! もう体は大丈夫?」
 心配そうにマリアさんは聞く。
 
 ―――……っ―――

 「はい。大丈夫です…。ご迷惑をおかけしました」
 ギュっと服の裾を握った。マリアさんは特にその私の動きに興味を示すこともなく「学校まで一緒に行こうかー」と楽しげに笑った。
 「……」


 昨日は、景一さんの家に遊びに行くといういきなりの提案をされたが、私は丁重に断った。これ以上あの人達に深入りしない方がいいと、昔のようにはなりたくないと思ったのかもしれない。

 ……ん? 昔のようにって…? 私昔に何かあったの…?

 それに、私昨日『嫌われるのは嫌』って…。どういう意味…?




 「―――かちゃん! ―――理花ちゃん! 聞いてる?」
 「…っ! す、すみません…」
 「大丈夫?」
 私が「はい…」と言うと、マリアさんは少し間を空けてから「そっか」と笑ってくれた。
 「それでさっきの話なんだけどね」
 「はい」
 「好きな人いる?」
 「っ?!!!」
 ほほを上げながら言うマリアさんには、一切悪気なさそうな顔だ。
 「いる? ねぇいる? ねぇねぇ。いるいるいる?」
 この人しつこい…。何回聞くの。
/ 31ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp