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ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない



 「大丈夫だって」
 「お前が決めんな」
 「勇生の家ならいつでもオッケーみたいな」
 「どんな理屈だよ」
 「えー。遊びたい…」
 「はい! 分かった! 分かったからもうこの鍵カッコだらけの会話止めよう!!」

 景一さんがパンパンっと手を叩くと、祥太さんと勇生さんはこちらを向いて「なんだよ」とでも言いたそうな顔をした。
 「もう僕の家でいいよ! はいこれで決定!! 病院でそんな言い争いしてたら迷惑かかるから! それに一番困ってるの理花ちゃん!!」
 「…あの……」
 大きな声で一気に話した景一さんに「後ろ……」と言ってみると、全員後ろを向いた。
 景一さんはハッとしてすぐに深々と礼をした。
 「………っすみません!」
 開けっぱなしの扉の奥では、私の様子を見に来たのであろう看護師さんが「あはは…」と苦笑いをしていた。
 「まぁ、病院ではもう少し静かにしてね」
 「はい…」
 顔を真っ赤にしながら謝る景一さんに、祥太さんとマリアさんはクスクスと笑った。
 「えっと…理花さん。体調はどう? 気持ち悪かったり、頭痛かったりしない?」
 「あ…はい…」
 看護師さんは優しく微笑むと、聴診器を首から外した。
 「っ!!?」

 …しまった。ここが病院だということを忘れていた。
 どうしよう。もしもバレたら…。私の汚れたところを知られたら……。

 チラッと4人のほうを見る。




 ―――知られるのは嫌―――


 ―――見られるのは嫌―――








 ―――嫌われるのは、…嫌―――









 「……あ、あの…」
 「………」
 「…」
 「まぁ、さっきよりも顔色は全然いいし、大丈夫だね」
 …え?
 看護師さんは聴診器を首に戻し、にっこりと笑う。
 「じゃあ、もう帰れるかな?」
 「え……はい…」
 看護師さんは「総合受付に来てくれればいいからね」とだけ言うと、さっさと部屋から出て行った。
 「…?」
 何で聴診器で心拍数をみなかったのか。
 何でやらないものを手にもったのか。
 

 でもまあ、バレ無かったのには変わりないか…。

 「じゃあ行こうか」

 そう言って祥太さん達は先程の事を気にもかけず、椅子などを動かし始めた。

 …よかった。バレてないみたい…。

 「…ふぅ……」

 私は胸をなでおろして、ベッドからゆっくりと足を下した。

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