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ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない


マリアさんと勇生さんが喧嘩をし始めると、背の高い人が座ったまま私に謝る。
 「ごめんね…。いつもこんな感じだから気にしないでね」
 「あぁ。いえ」
 私が軽く会釈をすると、彼はニコッと笑って話し始めた。
 「僕は牧野景一。二年生だけど、一回留年したから歳は18。あと…料理が趣味かな」
 よろしく、と笑うと景一さんは「君も自己紹介お願いできる?」と小首を傾げた。
 「あ、はい。えと、鳥飼理花、一年です…。あの…えっと…」
 「あぁ。笑いはとらなくてイイよ」
 私が言いたいことを察して、苦笑いをしながら手のひらをこちらに見せる景一さん。
 やはり、1つ分年上だからだろうか。対応や言葉の扱い方など、話しやすいところは多くあると思った。
 ……どうだろ。歳関係ない気もするけど…。
 いまだに喧嘩を止めない2人を見てそう思っていると、祥太さんが「でさぁ」と口を開いた。
 「今日、勇生ん家で遊ぶかーって話なんだけど、理花来ない?」
 「おい待て。そんな事一言も聞いてない」
 どうやら完全規格外がったらしく、マリアさんとしていた言いあいは、祥太さんと勇生さんの言いあいに移ってしまった。
 「はぁ…。私達っていっつもこうよねー」
 「ホントに…」
 マリアさんと景一さんは二人同時に大きなため息を吐いた。

 …すみませんが、会話についていけない私のほうがため息つきたいです。

 と、挙手しようと考えたが、当然止めておいた。
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