第1章 プロローグ
教室に私がいると思わなかったのだろう
彼も同じように驚いているのか、私を見る瞳が僅かに見開かれていた
「...えっと」
(顔は...見たことあるけど...)
「驚かせてごめん。教室の前を通りかかったら風が吹いてきたから窓が開いてると思って。...椎田さんが居たなんて気付かなくて...」
(私の名前、知ってるんだ...)
自然に私の名前を呼ぶ彼をなんとか思い出そうとジッと見つめる
彼はそんな私に柔らかく微笑むと
「それじゃあ、帰りは気をつけて」
そう言って教室を出て行こうとしたその時
彼のことを思い出した――
「あっ...雨宮、恵」
静まりかえる教室
遠慮がちに呟いた私の声が、スッと教室の空気に溶けていった