第17章 優しい嘘、切ない嘘
「でもさ。椎田と出会って、恵は変わったんだよ」
「私...?」
「うん。コイツ、心から笑ったことあるのかな...ってずっと思ってた恵が、最近すっげぇ笑うようになったんだ。駿だって、元から明るいけど最近更に明るくなった。全部...椎田のお陰だって俺は思ってる」
「それは言いすぎだよ!本当、私...取り柄がないことが取り柄ってくらい何もなくて...」
ブンブンと顔の前で大袈裟なほど振った手は、彼の大きな手にぎゅっと握られてしまった
真剣な瞳に覗き込まれて何も言えなくなってしまう
「俺は椎田の良いとこ、いっぱい知ってるよ。明るくて謙虚で優しくて真っ直ぐで...我慢強くて1人で抱え込むから心配なところもあるけど...」
そこで、山口君の言葉が途切れる
ドキドキと高鳴る鼓動といつもと違う山口君の眼差しを受けながら、次の言葉を待っていた
「そんな椎田が、好きだよ」
周りの声が遠くに聞こえるくらい、ハッキリと山口君の言葉が聞こえた
真っ直ぐ見つめてくる彼の瞳を見つめたまま
私の頭の中で、その言葉がぐるぐる回っていた
「え...、えっ!?」
「初めて会った時から、ずっと好きだった」
初めて会ったのは、2年で同じクラスになって
隣の席になった時
あの時...
「山口君から、声を掛けてくれた...」
「隣の席になってからだって思ってる?」
ぽつりと呟いた私の顔を山口君が少し不服そうに覗き込んでくる
心臓がバクバクして、顔が熱い...
「俺たち、入学式の日に会ってるんだよ」
「え?」
「椎田は覚えてないかもしれないけど...」
そう言って眉を下げた山口君は、照れくさそうに笑った