第16章 動き出した運命
あゆが来てから暫くしてようやく来た駿たちを交えて、賑わっている境内へと5人は入っていった
至るところから漂ってくる美味しそうな匂い
客を呼び込む声や、楽しそうな子供たちの声
次第に陽も落ち薄暗くなってきた中
屋台の灯りが辺りを照らし、祭りの雰囲気が一層賑わってきた
「あ!咲綺ちゃん、ヨーヨー釣りやろうよ!」
黄色の浴衣を着た咲綺の手を取り、目的の屋台へと駆けていく2人
その後ろ姿はすぐに人混みの中へと消えてしまった
「あっ、ちょっと2人共!って...見えなくなっちゃった...」
見えなくなった2人の姿に、不安そうに呟くあゆ
一番背の高い勇介は人の流れから庇うようにあゆを気遣いながらも、遠くへと視線を向けると「大丈夫」と呟いた
「すぐそこの屋台に行ったみたい。俺も駿たちのとこ行ってついでに何か食べ物買ってくるよ。この人混みじゃ下手に皆で動くより1人で行った方がよさそうだし」
「それなら俺が...」
勇介と同じように駿たちの姿が見えた恵が言いかけた瞬間
あゆの背中を軽く押し恵へと近づかせると、勇介は微笑んだ
「何かあったら電話するから。恵たちはそこの石段で待ってて」
「え?や...山口君っ!」
あゆの呼び掛けにも振り返らず、そのまま人混みを割って歩いていく勇介
人混みへと消えていく背中を見つめたまま呆然としていると、人の肩にぶつかりよろけた所を恵に抱き止められた
「ご、ごめんっ...」
ふわりと鼻をくすぐるあゆの香りに恵の鼓動がドキリと弾む
「はぐれんなよ」
人混みに紛れればすぐに見えなくなってしまいそうな小さな体
恵はあゆの手を取ると、慣れないであろう下駄の彼女に歩調を合わせながら石段へと向かった