第16章 動き出した運命
静かな空間に2人きり
不謹慎にも私の心臓は普段より速く脈打っていた
(2人きりになるの久しぶりすぎて、なに話していいか分かんないよ...)
ふいに包帯で巻かれた雨宮君の左腕が目に入る
私を庇うために負った傷
雨宮君が傷つけられる必要なんてなかったのに...
それが申し訳なくて、自分の手元に視線を落としていると雨宮君が動いた気配がした
顔を上げると体をこちらに向けてベッドの縁に座っている彼に、どうかしたのか聞こうと口を開きかけた瞬間
私の肩口に彼の額があてられ、ふわりと雨宮君の香りがした
「あ...雨宮君!?」
突然のことに動けないまま戸惑っていると、そっと左腕を掴まれる
「ずっと...夢ならよかったのにって、思ってた...」
掠れた雨宮君の声
左腕を掴んでくる指先が少し震えていた
「分かってたんだ。梨奈が轢かれた時にチビを抱いてたって聞いた時も、璃央がすぐ近くにいたって知った時も...。俺が...、俺のせいで梨奈が死んだんだって...」
(私...今、雨宮君の心の声を聞いてるんだ)
独り言のように
ゆっくりと紡がれていく言葉を、私は黙って聞いていた
「野犬に梨奈が襲われた時に梨奈に誓ったんだ。俺がずっと守るって...。でも、梨奈を守れなかった...。約束を守れなかった俺に、梨奈が夢の中で言うんだ...“うそつき”って」
震える声をなんとか抑えながら、恵は最期の時を思い出していた