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恋愛玩具

第16章 動き出した運命



「...え?」

武本君の言葉の意味が分からず顔を向けると、肩を竦めた武本君が項垂れたまま言葉を続ける

暗い病院の廊下で俯く彼の表情はここからよく見えなかった

「恵の家に、電話したんだ。怪我したからすぐに来て欲しいって。でも...使用人を通して『自分に起きたことは全て自己責任だと教えてある』って、電話口にも出てくれなかった...」

怒りなのか、悲しみなのか...
武本君の声が震えている

「自分たちの子なのに...どこまで無関心なんだよっ...」


――彼はね、自分の家族に“悪魔”と呼ばれていたの


前に保健室で聞いた奈々先生の言葉が浮かぶ

私の中で、家族は絶対的味方

帰ったらお母さんが笑顔で迎えてくれて
みんなで食卓を囲む

家族は、幸せの象徴
誰もが親の愛情を受けて育つものだとばかり思ってきた

でも...雨宮君は、誰も迎えてくれない家に帰って、ずっと1人で過ごしてきたんだ

奈々先生から話を聞いた時は
今思えばただの同情だったのかもしれない

でも今は...
今は、違う感情が自分の中で芽生えていた

「大丈夫だよ」

意図せず自分の口から出た言葉

その言葉に、武本君は項垂れていた首を起こした

「雨宮君は大丈夫。心の底から心配してくれる友達が、ここにいるんだから」

雨宮君のこと、まだ知らないことばっかりだけど...2人を見ていてそう思った

最悪な出会い方をして、本当に最低な人だと思ってた
でも、今は最低だなんて思ってない

家族から見放されても雨宮君から優しさが消えなかったのは
きっと武本君がずっと傍にいたからだと思うから

「...ありがとう」

ほんの少し表情が緩んだ武本君を見て、私はほっと気持ちが落ち着いた

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