第8章 癒えない傷
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「ちょっと、恵?どこ行くのっ?」
その声に我に返ると、恵は立ち止まった
「......ごめん」
(何やってんだ、俺...)
顔を片手で覆うと深く溜息をつく
様子がおかしい恵を見て璃央は眉を寄せた
「恵。私...」
恵の頬へと伸ばした手は触れることなく腕で振り払われてしまう
「理事長室行くだろ?このまま真っ直ぐ行ったら着くから...じゃあな」
冷たくそう言い放つと背を向けて行ってしまった
「......」
その後ろ姿をジッと見つめていた璃央は強く唇を噛んだ
「璃央様!」
呼ばれた方へと顔を向けると、スーツを着た長身の男性が駆け寄ってくる
「葵...」
「探しましたよ。勝手にいなくならないでください...」
素早く息を整えると、その男は「行きましょう」と璃央の背中に手を添えた
「ねえ...、葵」
璃央は腕を掴み、見上げると微笑んだ
「私のお願い...聞いてくれるかしら?」