第8章 癒えない傷
ガチャ
「おっはよー!」
静かだった室内に響く元気な声
恵は声の主を鬱陶しげに横目で見ると軽く息をついた
「朝からうるさい...」
「恵がテンション低すぎなんだろ?明日から夏休みなんだからもっとテンション上げろよな!」
楽しそうに肩を叩いてきた駿を見て、恵は一瞬目を細めた後頬を緩めた
「...そうだな」
穏やかに微笑む恵に駿は驚いたように目を見開いた
向けられる視線に恵は再び眉を寄せる
「なんだよ?」
「いや...恵がそんな風に笑うの、久しぶりだなって思って」
駿の言葉に恵は目を眇めた
「はぁ?」
「だってさ、あの頃から...恵ってあんまり笑わなくなっただろ。作り笑顔はよくするけどさ...」
駿の”あの頃”という言葉で俺に気を遣っていることがよく分かる
間接的な言い回しでも、恵は僅かに苦い表情を見せた
そんな恵を見て駿も辛そうに表情を曇らせる
「やっぱり、恵の中では梨奈の存在が大きいんだな...」