【フジリュー版】今日も私は空を見上げる。【封神演義】
第1章 春
「テメェ何してんだよ!!!」
突然疾風が吹いたと思えば憲兵は吹き飛ばされ私も尻もちをつく。と同時に上から怒声が聞こえる。
男の意識がそちらに向くと同時に私も声のした方へ顔を上げる
「うるせぇ、誰に向かってその口きいてるんだ!」
怒声を上げる男の肩越しに見えたのは…
浅黒い肌、尖った耳、一対の黒い翼
未だうっすらと残る月の輪郭を背に昇る日を浴びて「彼」はそこにいた。
「おい、オメェ大丈夫か?」
翼を揺らし音もなく私と憲兵の間に着地した彼は私の顔を覗き込みニッと笑って見せる
「だ…大丈夫です、本当にありがとうございます。」
溢れかけた涙で揺らぐ気持ちと世界を取り戻し取り繕うように私は精いっぱい笑って頭を下げる
下を向いた瞬間に 一粒、涙が落ちた
「…! オンナ泣かせるとか最低だな!!!」
彼の眼に炎が宿る。怒りを露わにした様子で振り返れば根棒を振り上げた姿の憲兵がすぐ近くまでやってきていて
「うるせえ!空飛ぶバケモノなんかにコイツは渡さないからな!!」
彼に向って勢い良く振り下ろした
「っ!!!」
その先の事を想像して思わず目を瞑ってしまう
ああ、またこうか
大事な時に何も出来ない
この人の助けを私は無駄にしてしまうのか
もう一粒 涙がこぼれかけた、その時。
「テメーは人としても武人としても性根が腐ってやがるな!!!」
ガチンという金属が激しくぶつかる音、吠えるように叫ぶ声と派手な打撲音。
涙さえ擦り抜けてこの目に届いたのは 眩い朝日を帯びて拳を振りぬく 自信に満ちた青年の姿。
一瞬、だった。
光が収まったと思えば憲兵は地に伏して倒れ、彼の手甲の形の痣がくっきりと顔に残っていた。
「ったく口ほどにない奴だぜ!!」
両手を叩いて埃を落としながら憲兵を足蹴にして端に追いやったと思えば、あわてた様子で何処からともなく筆をとり出しいきなりお屋敷の壁に文字を書き始めた
「・・・・・空の兄弟 参上!!…何それ?」
訝しげに彼の書いた文字を読み上げればバッと振り返り
「オマエ空の兄弟知らないのかよ?!」
あり得ない、と言いたげな目で見てくる彼に対し
「そりゃーお礼どころか未だ何も言ってませんからね。」
何とか立ち上がり服についた汚れを軽く払い彼に向かい深く一礼する
「この街に暮らす仕立屋で布帛と申します。助けていただき誠にありがとうございました。」
