【フジリュー版】今日も私は空を見上げる。【封神演義】
第1章 春
「おい、貴様。」
後ろから強く呼びかけられ身が震える。一呼吸置いてからゆっくりと笑顔で振り返る。
「はい、何の御用でございましょうか?」
この時間に表にいる奴は呑み続けて死にそうになってる爺さん、人をみれば見境なしに襲う盗賊、そして一番メンドクサイのが…
「こんな時間に何処をほっつき歩いてるんだ?怪しい奴め。」
風切り音と共に目の前に憲棒が振り下ろされる。お屋敷の周りにいる憲兵だ。
(失敗したなー、考え事しすぎてついうっかり屋敷の前まで来てたよ。こいつらが一番たちが悪いんだよね。)
申し訳ありません。と一言詫びてから一歩下がり深々と一礼し
「町の仕立屋にございます。李伸様に仕立て挙がりましたお召し物をお届けにまいりました。お通し願えますでしょうか?」
始めてみる顔の憲兵だったので精一杯の営業笑顔で対面する。
(…あー、すごい酒臭い。絶対見張りサボって飲んでたなーこのおっさん)
「ふーむ、そうかお前が噂の。そうだなー・・・」
上から下までじろじろと眺められ酒臭い息が身に降りかかる。もう春とはいえまだ夜明け前は寒く、時折吹く風に小さく身じろいで私は外套に首を埋めきつく体に巻きつける
「あの、もう宜しいでしょうか?」
水瓶と反物、仕立てた商品を持つ手が悴んできた。最後の一押しと言わんばかりに憲兵を見上げ困り顔をしてみる。
(あまり時間をかけると起きてきた町の人々に見つかってまた何言われるかわかったもんじゃないし、今日の予定をもう頭の中で組んでるんだよ!)
そう思ってながらも笑っていれば急に強い力で腕を引き屋敷の壁に背を押しつけられ思わず悲鳴を上げる
「きゃっ!?な、何するんですか。お戯れはおやめ下さい。」
幸い壺や商品を落とさなかったけど、今私の両手は塞がってるし体で押し返す事も出来ない。相手の目を睨みつけようと顔を上げれば卑下た笑いを浮かべながら
「仕立屋ってのは夜伽しにこのお屋敷に来るんだろ?だったら俺の相手もしてくれよ、な?」
そう言って私の腰に手を回して酒臭い顔を私の顔に近づけてくる
(嘘でしょ)
「や、止めてください。やめ・・・やめろ、やだ!」
壺ごと叩いても男の力は弱まらない。
「誰か!誰かいませんか?!」
首筋をなで顎に触れてくる手がおぞましい。
「お願い、止めて・・・本当に、お願いします。」
勝手に涙が出てあの日のように世界が滲んでいく
