【フジリュー版】今日も私は空を見上げる。【封神演義】
第1章 春
何時ものように宵闇の空を見上げる。
この頃合いの空はいつも綺麗。
目覚めてすぐのこの時間に…私は彼と出会ったんだ。
そう、それは確か・・・
春 自由への翼
村の誰もが目を覚まさない時間に私は一人街中を歩く。風が吹く度に砂埃が舞って乾いた大地に襲われる。
私の住む村は今水不足に悩んでいて、町の富豪が水を独占し値を釣り上げている。生きる分には事足りるけど周りの農家の皆さんは大変そうだ。
幸い我が家は代々仕立屋として続いてきたので難を逃れたが、それでも染料を使う時には大量の水がいる。
結果として私は人目を憚りながら毎朝お屋敷に向かい「上客様」に仕立てた物を売り、そのお金でまた水を買う事を繰り返している。
昼間に水を買いに行けば陰口を叩かれ、「本当は身を鬻いでいるのだろう」と面と向かって言われた事すらある。
そのせいで最近はこの時間に水壺と仕上がった商品を抱えひっそりと身を隠すようにお屋敷に向かう。
…本当ならばこんな風に生きる事もなかった。
父と母は腕のいい職人だった。私の誇りであり憧れで、私にも丁寧に技を教えてくれる町一番の働き者・・・だったんだ。
ある日都から使者が来て「紂王様の生誕祭に合わせて特別なお召し物を誂える為に朝歌に優秀な職人を集めている。明朝あけぼの時に町の広場に集まれ。異論がある場合や明朝集まらなかった場合は国家反逆罪として処罰する。」と父と母に言い放った。
幸か不幸か朝歌寄りの西岐にあるこの町にも「紂王様の乱心」の声は届いており、私も含めた町の老若男女みな知っている話だった。・・・そして「王の命令に背けば殺される」という事も。
勿論父も母もすぐに旅支度をし隣近所に私の世話を頼んだ後、残り全ての時間を私への技術の継承と作業工程を紙にしたためる事に使ってくれた。
二人とも笑顔だった。
必ず帰るから、と。紂王様に贈呈できるだなんて名誉な事なのだから、と誇りに満ちた目をしていた。
なのに私は悲しくて悲しくて涙が止まらなかった。その感情を押し殺すように夜通し二人の教えに没頭した。
そして涙のせいか薄明かりの為かぼやけた世界の中、両親は幸せそうな顔で旅立った。
・・・もう3年も前の話だ。
父も母も帰ってこない。
文すら来ない。
「・・・・・きっと父さんも母さんも元気に生きてるよ。」
白けてきた東の空を見ながら昨日と同じ言葉をつぶやいた。
その時だった
