第2章 鱗片
彼女の奇怪な出来事を語る前に、ひと月ほど前のとある出来事を振り返る必要がある。彼女が奇怪な出来事の前触れに出会う、その更にひと月ほど前のことだ――その日は酷い雨だった。
ぽつり、ぽつり、金平糖のように粒の大きな雨が本丸に降り注いでいた。その騒々しい音を聞きながら、徹夜二日目に差し掛かっていた審神者――湯女は苛立たしそうに万年筆を握り締めて書類と睨めっこしている。
彼女の傍らに控えていたのは、その頃近侍を務めていた燭台切光忠だった。すると、突然障子が開かれ白い着物を着た男が軽快に飛び込んでくる。
「よっ! お嬢に光忠、書類の仕事とやらは終わりそうか?」
「ええそうね……光忠のお陰で、何とか終わりそうよ」
「鶴丸さん、気が散るから出て行ってくれないかな? 徹夜続きの頭に、鶴丸さんの声は嫌な意味でよく響くんだ」
「こいつぁ驚いた……! 光忠に厄介払いされる日がくるなんて……俺は、俺は悲しい!!」
「国永。湯女と光忠の邪魔をするな、出て行け」
そんな中、静かに現れたのは褐色の肌が特徴的な男、大倶利伽羅だ。彼は鶴丸の首根っこを掴むと、ぽいっと部屋の外へと追い出してすぐに障子を閉めた。