第1章 竜頭
「どうしてすぐ俺に言わない!!」
「だって、これが竜の鱗だなんて私にすぐわかるわけがないじゃない!」
「わからなくとも、何かあればすぐ俺に報告するのが筋だろう! 何のための近侍だ!! 馬鹿なのかあんたは!!」
「馬鹿って言わないでくれる!? 馬鹿って言う方が馬鹿なんだから! この馬鹿!」
「なんだと……っ!?」
いつの間にか醜い言い争いが始まり、互いに敵意剥き出して睨み合う。やがて湯女の方が無表情へと変わり、腕に浮かび上がった鱗を気味悪げに撫でた。
「……最初は気のせいだと思ったの。数日経てば、何ともないって……もしかしたら霊力の使い過ぎとか、その辺りが原因だと思い込んでいたの。だから黙っていただけなの……ごめんなさい。それに、ほら……最近出陣が多くて疲れていたでしょ? 倶利伽羅」
「……疲れてなど、いない」
「少しでも休んでほしかったのよ。まぁ、結果として私は貴方の仕事を増やしてしまったのだけど」
「まったくだ……これだから人間は」
「それやめて。なんか、むかつくから」
大倶利伽羅は大きく溜息を吐いて、がしがしと湯女の頭を撫ぜた。過ぎてしまったことをいくら責めても、もう遅い。それくらい彼にも理解出来ているのだろう。再び湯女の腕へと視線を落とし、大倶利伽羅もまた鱗を上から撫でた。
「ただの竜じゃないな」
「わかるの……?」
大倶利伽羅は忌まわしそうに言い放つ。
「竜に嫁入らせ……か」
「え?」
「いつからだ? 詳しく聞かせろ」
「……。五日ほど前の話よ」
そうして湯女は、ぽつりぽつりと奇怪な出来事の”始まり”を語り始めるのだった。