第2章 鱗片
「おい倶利坊! 俺に対してその態度はどうかと思うぞ!? なぁ、倶利坊!!」
「やかましい。斬られたいならそのまま喚いてろ、首が飛ぶぞ」
「……」
大倶利伽羅の低い声が鶴丸にも届いたのか、さっと鶴丸の叫び声は収まりとぼとぼと廊下を歩いて行く音が聞こえた。部屋から遠のく足音を聞きながら、大倶利伽羅は室内にいた二人へと視線を向けるのだった。
「光忠、一度休憩にしたらどうだ?」
「それもそうだね……。湯女ちゃん、少しお茶を淹れてきてあげるから休憩にしよう。あともうひと踏ん張りだしね」
「わかったわ……」
よろりと立ち上がった燭台切は、ふらふらと部屋を出て行った。それを見送って湯女は万年筆を机の上に置く。相当疲労と眠気が溜まっているのだろう、気を抜けば今にも眠りこけてしまいそうな勢いだ。それを阻止するかのように、大倶利伽羅は湯女に近付いてそっと肩を揺すった。
「おい、目を閉じるな。そのまま寝たら駄目なんだろう?」
「ああ……そう、ね。ごめんなさい、やっぱりだいぶ疲れているみたいで……」
「珍しいな。あんた達がそこまで仕事を溜め込んでいるなど、いつもはほとんど光忠が済ませてしまうだろう」
「そうなんだけどね、実は一度書類は完成して提出したのよ。けれど、審神者のみしか記入することが出来ない書類が幾つも混ざっていたみたいで。職務怠慢の罰として、様々な報告書の提出を言い渡されたのよ」
「そもそも、あんたは何処までの仕事を光忠に任せているんだ?」
「何処まで? さあ……何処までだったかしら。そういえば、最近私の仕事が随分ないように思えるわね。いつも軽く書類のチェックをお願いされるだけだし」
「……。もしかして、とは思うが……あんたはほぼ全ての仕事を、光忠に任せているのか?」
「強制はしていないのよ? ただ光忠が……僕に全て任せてくれればいい、主は何もしなくていいの一点張りで……気付いたら光忠がいないと、何も出来なくなってきたような……気も」
そこまで口にしたところで、大倶利伽羅は強く湯女の両肩を掴んで向き合った。只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、湯女は疲労を見せながらしっかりと大倶利伽羅へと顔を上げる。