第12章 憔悴
「そう思い始めたら止まらなかった。僕の全ては君だから、君なしじゃどうしていいかわからなかった。僕を見てほしくて……僕は……あんな男の誘いに耳を貸して」
湯女はゆっくり、彼の方へと歩みを進める。大きく深呼吸をすると、少しだけ緊張した。
何も知らなかったとはいえ、自分が行った選択がいつの間にか彼を悩ませていたことに胸が痛む。
そっと、燭台切の背中に触れる。
「私ね、光忠がやってくれることに甘えていたの。何でもやってくれるから、それが……心地よくて。でも心のどこかで、こんなこと続けてちゃいけないって気持ちがあった。それをね、俱利伽羅だけが気づかせてくれた」
触れた背は大きいはずなのに、今は少しだけ小さく感じられて。どんな思いで彼の思いに応えたらいいのか考えながら、湯女はそのままぎゅっと燭台切を抱き締めた。
「光忠のことが嫌になったから近侍から外したんじゃないの、私も今より良い方向へ行きたくて……そうしたくて、そうしたの。俱利伽羅を選んだのはもっと皆と馴染んでほしくて、ほら、近侍ってやることが多いから自然と周囲との接触が増えるでしょう?」
その言葉を聞いて、俱利伽羅はぼそっと「いやがらせか」とぽつり零す。
「いつも支えてくれてありがとう。あまりにも近くに居たから、ちゃんと言葉にすることを怠っていたわね。ごめんなさい」
「湯女ちゃんは悪くないんだ……ッ! 僕が、僕が君に……」
先の言葉を紡ぐことなく、燭台切はぐっと堪えた様子で黙り込んだ。
湯女はただ「ごめんね」と繰り返すことしか出来なかった。