第12章 憔悴
「竜が濃くなったから、俺の夢に入って来れたのか」
「そうなの……?」
「あんた、それどうするつもりなんだ。食われるのを待っているのか? でも良かったな、あんた政宗公と何らかの繋がりがあるんだろう。その血が、宿る霊力が、浸食を辛うじて抑えているんだ」
「そう、だったのね……」
霊力があるからこそ、質の悪いものに憑かれたと考えていた湯女は、全くの逆だったことに少しだけ驚く。
少年は面倒くさそうに、溜息まじりに「あのさぁ……」と口を開く。
「自覚あんのか? 仮にも神に愛された人間がどうなるかくらい、わかるだろ?」
「凄惨な死を迎える……とか?」
「阿保か、あんたは。そんな生易しいものじゃない。陰湿で、冷たくて、何もなくて、輪廻を捻じ曲げてでも絶対に逃がさない……ーーそういうものなんだぞ、神の寵愛ってものは」
思わず「わあ……」と湯女が声を上げると、少年は宙を仰いで自身の眉間の皺をぐいぐい指で押し潰していた。
少年は「はあ、めんどくさい……本当にめんどくさい」とブツブツ。
湯女も少年の反応に、さすがにちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。とはいえ、今まで不明瞭だった鱗の詳細を今ここで知ることが出来たのは大きな収穫だった。少年の名はいまだわからないままだが、口ぶり的に湯女の良く知る人物で間違いはなさそうだ。
「もうお前、そろそろ出ていけ」
「え? ……ッ」
「もうすぐ俺も目が覚める頃だ。もういいだろう」
「ま……ッ」
引き留める声は出ず、視界は靄がかかったように白く霞んで少年の姿もやがて見えなくなる。するとーー湯女の意識もそのまま闇の中へと消えていった。