第12章 憔悴
問うーーその問いに、彼が応えるかどうかは別として。
「貴方は、誰なの?」
「……さあね。あんたみたいな半端ものに応える義理はない」
「半端……」
「あんた、それ」
少年は眉間に皺を寄せ、湯女の右手を指差した。裾から除く鱗が、少年の目にも映ってしまったらしい。
「竜の嫁が、なんでこんなとこにいる。勝手に入ってくるな」
「入る……?」
「お前、夢見の力でもあるのか。人の夢に【入ってくる】なんて、いい度胸している」
「ここ、あなたの夢の中なの?」
「そうだ」
少年は独り言のように「なんで人間なんかが」とぼやき始めた。
それから、また湯女の右手をじろりと睨みつけるような視線を向けた。
「あんた、俺に何したんだ」
「な、何したって何が!?」
「そういう類のものはな、人ならざる者が行う寵愛なんだよ。あんた、一体何したら俺から寵愛を受けるんだよ。俺の気配がぷんぷん染みついてやがる。気持ち悪い女」
「な……っ、あのねぇ! 君が想像してるような卑しい真似なんかしてないんだからねっ!? 私の方がこれをどうにかしたいくらいなんだから……」
「は……、俺が人を寵愛するわけないだろ。卑しい真似でもしなきゃ、そんなことになるはずがない。俺は、政宗公にも、向けたことがないんだ」
「……」
そんな風に言われてしまうと無意識に自分が何かしたのかと、湯女は少しだけしょんぼりと肩を落とす。しかし、少年の口ぶりからしてこの鱗は大俱利伽羅が原因のようだ。
ーー俱利伽羅が一番、やらなさそうなことなのになぁ。
心の中でぽつりと呟く。