第11章 帰城
少しずつ廊下を歩き、何処へ向かうのか、歩いた先に何があるのか。何も知らぬまま、ただ湯女は歩みを止めるわけにはいかなかった。
一頻り歩くと、重く堅く閉ざされた両開きと思われる扉の前に立っていた。辺りを確認するように一度振り返るも、何故か先程まで歩いてきた長い廊下がなく背に迫るように壁が存在しているだけだった。
「一体、この夢は……私を何処へ連れていこうとしてるの」
帰り道はない。ならば――湯女は体重をかけるような形で、目の前の扉を押し開くのだった。視界に広がる景色に、息が詰まりそうになる。
おびただしい刀の残骸、どれも血に濡れ折れてしまっている。転がるどれもが、竜が刻まれていることに気付くと無意識に言葉が溢れた。
「大倶利伽羅……?」
部屋の奥、誰かの背中があった。
ごくりと息を呑み、じっと……近付く。近付いていいのかもわからない、それでも足を止めていることさえ怖くなり始めた湯女は、正体を確認しに行くかのように思ったよりも小さな背のすぐ目の前までやって来る。
――ちりん。
何処かで、鈴の音が鳴った気がした。
「……――痛い」
少年の声が、部屋に響き渡る。大きいと思っていた背は、いつの間にか小さく。湯女の瞳は大きく見開き、重すぎた右腕を伸ばして少年の肩に置いた。
「あんたも、痛いのか?」
振り返った少年は、金色の瞳をじっと湯女へと向けて射抜いた。無意識に少年の左肩に置いていた右手は、じわりと熱を持ち幾分が軽くなった気がした。ゆっくりと手を離すと、先ほどまであった重みはなくなっていた。
「貴方は……誰なの?」
問う以外に、どんな言葉を投げかけて良いのかわからなかった。心は無心で、何かを語ろうにも喉奥がぎゅっと閉まって、いっそ口を閉ざした方が楽なのではないかとさえ思えてくる。湯女の問いに、少年は答える気があるのかないのか。再び背を向けて黙り込んでしまう。
「ねぇ、貴方は一体誰なの?」
もう一度、問う。