第1章 竜頭
「竜が人を食う? ふっ、馬鹿げた話だな。そもそも竜なんていない」
「あら、貴方の腕にはいるじゃない。立派な倶利伽羅竜が」
「……からかっているのか?」
「そう聞こえたなら謝るわ。でもね、冗談ではなく本気で聞いているのよ」
「……何かあったのか?」
そう大倶利伽羅が尋ねると、湯女は視線を泳がせてから目を伏せた。言いたくない事でもあるのだろうか? とはいえ、自ら切り出した話なのだから追及しても問題はないだろう。大倶利伽羅はぐっと湯女との距離を縮め、改めて問うた。
「何が、あった?」
先程とは聞き方を変えてみる。すると湯女は観念したかのように、自らの腕を捲り上げ始めた。それに何の意味があるのか……暫く静観していると、大倶利伽羅は視界に飛び込んで来たものに驚き思わず勢いよく湯女の腕を掴んだ。
「いっ痛い! 何よ急に……」
「これはどうした。いつからだ」
大倶利伽羅の見つめる先には、湯女の白い腕。しかし……異様なことに、淡い鱗のような刺青が浮かび上がっていたのだ。じっと目を凝らして見れば、それが魚の鱗ではないことがわかる。大倶利伽羅はきゅっと唇を噛むと、鋭い瞳で湯女を睨み付けた。