第11章 帰城
「湯女ちゃん、一度僕らの本丸に帰ろう」
「……でも」
「このままじゃ、彼……本当に折れてしまうよ。今ならまだ、間に合う」
「でも……ッ!!」
静寂を切り裂くように、湯女の声が響く。
彼女の衣服を容赦なく汚す赤、ただ止めどなく流れ次第に彼女の正常な思考さえも奪っていくようだ。錯乱した様子の彼女に気付いたのか、燭台切は眉間に皺を寄せ湯女の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。一度、燭台切は大きく息を吸っては吐き、思い切り彼女の頬を打った。
「い……ッ」
「いい加減にしなよ、現実を受け止めて、主。倶利伽羅君は重傷、一度手入れ部屋に入れて身体を休ませよう。それから、大倶利伽羅廣光の刀に関して次の手を考えよう」
「次の手って……何、どうすればいいの。何の手がかりもない、どうしようもない……呆気なく刀を奪われ、私は……」
「これは、主にしか出来ないことだよ。さあ、戻ろう? 僕達の本丸へ」
「……」
湯女の返答は、なかった。代わりに、小さく頷き強く大倶利伽羅の身を抱くことしかせず。燭台切もまた、何も言わず二人を支えながら立ち上がる。すると、ゆっくり目の前を横切る蝶。一瞬燭台切は目を丸くするも、次第に「なるほど」と呟いた。
「君が、主をここまで無事に届けてくれたんだね。ありがとう」
黒い蝶はふわふわ漂い、まるで三人を導くように前方を飛んでいく。燭台切は蝶の後を追い、重い足取りで地下を脱出するのだった。