第11章 帰城
「愚かだな、人の子よ。人と神は相容れぬ、心なぞ与えなければもっと意のままに動く人形になれただろうに」
銀色の刃が振り下ろされる――湯女は小さな身体に大倶利伽羅を抱き、これ以上彼が傷付くことのないようにと自らの身を刃の軌道上に晒した。瞼を強く閉じれば、きっと静かに痛みだけが襲い事切れることだろう。けれど、彼女に痛みは訪れなかった。
「……?」
ゆっくりと、恐る恐る瞼を開けると――その先には、刃を刃で受け止める見慣れた大きな背が映った。蒼黒い髪、漆黒の燕尾服。
「光忠……?」
「……ッ、彼にだけ格好いい真似はさせられないよねっ!」
「……チッ、面倒臭い奴らだ。これだから心を持った付喪神など」
燭台切は自慢の腕力で廣光の刀を払い除け、湯女と大倶利伽羅を守るように構える。まるで興ざめと言わんばかりに廣光は大きく後退し心底面倒くさそうに表情を歪めた。
「ふん、俺の目的は果たされた。最早、お前達に用はない。名刀、大倶利伽羅廣光は俺の手中。時期に……大倶利伽羅などという、なまくら刀はこの歴史から消滅する」
地に取り落とされたままになっていた大倶利伽羅廣光を、廣光は柄を手拭いで結び付け、持ち上げた。
「……ッ!? なんですって?」
「その身を削いだ愚かな姿の子、打刀などに成り下がりおって……俺が正しく還してやる」
「待って……ッ!!」
廣光はくすりと笑い、そのまま霧のように四散した。湯女は大きく動揺を身に宿したまま、腕の中で瞼を閉じたままの大倶利伽羅を見つめる。