第11章 帰城
「な、んで……っ」
視界は瞳に滲んだ涙で滲んでしまう。優しく抱き締められて、まともな声も発することが出来ないまま。散っていく紅い花弁、鼻につく鉄の臭い。
咄嗟に握り締めていた大太刀を手から離すと、慌てて倶利伽羅の身体を抱き締める。
「やだっ、やだ……倶利伽羅ッ!!」
「……う、るさい……奴、だ……」
振り下ろされた刃は湯女ではなく、彼女を守るように抱き締めた大倶利伽羅の背を大きく斬り裂いた。散らばる赤に、流石の湯女も動揺を隠せず眼球が彷徨い息を乱し始める。それでも、大倶利伽羅は彼女を安心させようと強く抱き締めて離さない。
「は……っ、ははッ……俺はいつだって……一人で、十分だ。それでよかった、馴れ合うつもりはないからな……。でもあんたは、湯女は……身勝手な人間だ」
「……倶利伽羅っ」
「そいつの言う通りだ……、付喪神に心なんて……過ぎた代物だったんだ。そうでなければ、あんたを……俺は……」
少しずつ大倶利伽羅の息が小さくなり、絞り出された声もやがては閉じてしまう。湯女は大きく目を見開いて彼の顔を覗き込むも、いつの間にか美しい金色の双眼は閉ざされていた。
「ちょっと、嫌よ……倶利伽羅……っ。私を守って折れるなんて真似……絶対、させないんだから……っ」
黙って二人を見下ろしていた廣光は、刃についた血を振り払って再び刀を振り上げた。今度こそ、湯女を強く見つめて狙いを定めるように。