第11章 帰城
「だってね、皆馬鹿にするのよ……伊達政宗みたいだとか。伊達政宗の先祖返りだと騒いでいた親戚も鬱陶しかったなぁ……。一人暮らしをして、やっと煩わしい雑音から解放されたかと思えば審神者になれと言われ……結局私はこの『伊達湯女』という名と、家に、縛られ生きてきた。湯女という人間ではなく、伊達政宗の先祖返りとして扱われる日々。ああ……最低だった」
「ふん、人間とは心底くだらないことにばかり精を出す」
「でも……私ね、審神者になったことを後悔したことはないわ。本丸に来て、初めて知った温もり。先祖返りとしてではなく『湯女』として、一人の人間として見てくれる彼らの暖かさに私は救われていたの」
「刀に救われる? ははっ、それは傑作だ」
湯女の目の前に、廣光がしっかりと立っている、映っている。手を伸ばせば届きそうだが、向けるのは視線のみ。廣光も今までとは違う何かを感じたのか、無表情で視線を返すのみ。
「彼らに報いたい、この想いを返したい。いつしかこの日常を私は愛し始めていた、この日々を守りたいと思うようになった。だから私、決めたの……何が何でも守って……みせるって!」
一歩踏み出した先へと飛び出す、白く細い腕が必死に伸ばす先には美しく輝く大太刀、大倶利伽羅廣光。手で触れた時に感じた、刀が過ごして来た思い出、伊達政宗が愛した温もりが確かに残っているように思えた。守りたい、その想いだけ。
――鈍色の刃が、大太刀を掴む彼女の腕を切り落とそうと振り下ろされる。
ふわりと香りが舞う。花の香りがした。
訪れるはずの痛みは、何処にもない。まるでコマ送りのように、湯女の身体はゆっくりと褐色の肌を持つ腕が手繰り寄せ包み込まれる。