第11章 帰城
「廣光ッ!」
「煩い、黙れ……あんたの役目は終わった。あんたの、審神者としての力を利用してこの葛籠を開けさせることが俺の目的。まぁ、予想外の展開も起きたが無様にあの二人が壊れてくれるなら……それはそれで結構」
「光忠をあんな風に変えたのは……貴方のせいなのっ!?」
「俺のせい……? ははっ、それは勘違いだな。俺はただ、あいつの中に眠っていた感情を起こしてやったまで。あれは本来、奴が体内で飼い殺していた『本心』というやつさ」
「本心……?」
「なぁ、伊達の娘。刀に感情を与えたのは間違いだったとは思わないか? 俺は……心底失敗だったと思うよ」
そう口にして、廣光は躊躇いなく葛籠の中に眠る大倶利伽羅廣光の大太刀を手にした。途端、嬉し気に口角を上げ満足そうな表情を見せる。
「私は……間違いだったなんて、思わない」
ゆらりと湯女は立ち上がると、未だ強い眼光を見せて廣光の方へと歩み寄っていく。その姿が、どうにも廣光には気に食わないらしい。深く眉間に皺を寄せているのが、その証拠だ。湯女は悔し気な表情を噛み殺して、ぐっと握り拳を作る。ここで、このまま終わらせるわけにはいかない。
「ほぉ、間違いではなかったと? 何故」
「だって……心があるから、分かり合えることもある。感情があるから、他人の心に寄り添える。それは……とても素敵なことだわ」
「だがあんたは……あんたの瞳の奥には、人間共に蔑まれ馬鹿にされた記憶がゆらゆらとちらついている」
「勝手に、覗き見しないでよね……えっち。私はね、ずっと自分の名が……伊達の名が嫌いだった」
「……」
地を踏みしめ、ゆっくりと……けれど確実に廣光との距離を縮める。