第11章 帰城
「どうして……? ははっ、あははは……ッ!」
すると、燭台切は何か可笑し気にくつくつと喉仏を鳴らし高笑いをし始める。大倶利伽羅は眉間に皺を寄せるばかりで、ただ黙って燭台切の様子を見つめていた。
「どうしてって……僕にとって湯女ちゃんは、特別な人なんだっ! なのに、なのに君ときたら……僕が必死に掴んだ近時の座を意図も容易く奪って、僕がずっと憧れて必死に守り続けた彼女の隣を難なく占領しては、あんなにも近くで彼女の笑顔を見つめている!! 認めない……僕は、けして認めないッ!!」
「みつ……ただ?」
「悔しかった、悲しかった、湯女ちゃんの瞳に映るのはいつだって僕だけであって欲しかった。僕だけを……燭台切光忠という刀だけを欲して傍に置いて欲しかったのにっ!!」
「……ッ」
燭台切は悲痛な表情を浮かべたまま柄を強く握り締め、瞳孔が開いたかと思った瞬間、大倶利伽羅へと斬りかかる。瞬時に避けるも、燭台切も今まで数々の戦場を掻い潜ってきた男だ。この程度で攻撃の手が緩まるはずもない。すぐに次の攻撃が開始される。
「やめろ光忠ッ! こんなところで争っていても、何の意味もない……ッ!」
「意味……? 意味ならあるさッ、今この場で僕が湯女ちゃんにとって本当に必要な刀なのだと証明すれば、また彼女の近侍になれるかもしれないからねぇっ!」
「そんなっ……ことのためにッ!!」
大倶利伽羅はぐっと歯を食いしばって、燭台切の攻撃を薙ぎ払った。
その間、湯女は二人の戦いを見守っていたがすぐに葛籠のことを思い出し廣光へと視線を投げた。