第10章 回想
「大倶利伽羅だ……慣れ合うつもりはない。俺は勝手にするぞ」
「……」
「おい、聞いているのか?」
「綺麗な刀ね」
「……っ」
「あ、私は湯女。宜しくね、大倶利伽羅」
綺麗と告げた時の彼の顔を、私は今でも覚えている。とても驚愕したような、何を言っているんだこいつとでも言いたげな顔をしていた。けれど、その中にどこか嬉しそうな表情が含まれているように思えて。ああ、きっと良い刀なんだろうなと思えた。
その時から私はきっと、彼の美しさの虜となっていた。
丁度練度上げや早く本丸に慣れてもらうため、何より私が……少しでも近くで彼を見ていたくて倶利伽羅を……近侍にする決定を下した。
それについて、やはり光忠から言及されたが私は突っぱねてしまった。
私は今の生活が好き、大好き。刀剣男士の皆のことも大好きだし、光忠も倶利伽羅も大切で大好き。
この日々がずっと続けばいいなと、そう思っていた。疑うことなく、続いていくものだと思っていた。でも……夢を見る、暗い暗い夢。誰かが孤独に震えて泣いている。誰? 貴方は誰なの? 私を呼んでいるの?
――政宗公……。
ねぇ、そんな悲しい声で泣かないで。私が傍にいてあげるから、泣かないで。
「これは……?」
一瞬で記憶の海から意識が引き摺り起こされる。ああ、今まで私が見ていた光景は過去だったのか。なら、今私の目の前にある刀は何? この葛籠は……ああそうか、そういうことか。
「貴方が呼んだのね、大倶利伽羅廣光」
葛籠の中身はやはり、あの美しい倶利伽羅竜を刻んだ綺麗な刀。大倶利伽羅だ。