第9章 葛藤
「流石だね、倶利伽羅」
「光忠か……どうしてこんな奴の言いなりになっている? 伊達の刀として、恥ずかしく無いのか!!」
「君にはわからないよ……この人はね、僕に彼女を得るための機会をくれたんだ。ずっと彼女の隣に……湯女ちゃんの隣にいた君にはわからない!!」
「ッ!!?」
光の中から燭台切が姿を見せたかと思えば。蜜色の瞳を鋭く向けて、大倶利伽羅へと刃を振っていた。仲間同士であるはずの彼らが、刃を交え闘いに身を投じて居る。二人の姿を見つめて居た湯女だったが、一つの影がこちらへ近付いていることに気付き慌てて出口の扉を押し開けようとした。
しかし扉は一向に開く気配がない。
「なんでっ、なんで扉が開かないの!?」
「残念だったな人の子。そいつはこの俺が、ここに来た時に神力で閉じたもの。いくら審神者とはいえ、あんた程度の力で開くはずもない。いいからその葛籠を渡せ、そうすれば命だけでも助けてやろう」
「これは渡さない! これは……倶利伽羅にとって、大切なものだもの。貴方の好きにはさせない」
「大倶利伽羅のものだと? ならば俺のものと何が違う? 俺とて大倶利伽羅廣光、あいつとは何も変わらない。同じ刀」
それでも湯女は葛籠を手放しはしなかった。それよりか、もっと強く抱き締めてけして渡さない意思を見せる。すると廣光は鬱陶しそうに舌打ちして、湯女の腕を掴もうとする。
だが、廣光はすぐに背後を振り返り竜のごとく襲い掛かろうとしている大倶利伽羅の腹を蹴り飛ばした。
「大倶利伽羅ッ!!」
「一々煩い女だ……いいだろう、ならば大倶利伽羅を倒せばその葛籠を渡してくれるか?」
「そんな……っ」
燭台切に加勢するかのように、廣光は大太刀を手に大倶利伽羅へ攻撃を開始する。二振りの異なる太刀筋に、流石の大倶利伽羅も避けるのがやっとなのか大きく息を乱して抵抗を見せる。けれどそれも長くは続かないだろう。
心臓が高鳴る、緊張と恐怖で湯女の心は支配される。震える手で葛籠を手にしながら、そのままずるずると地へと座り込んでしまう。
――僅かに葛籠に熱が籠っているように思えた。
「これは……?」
湯女はそっと、葛籠の中身を開けてしまうのだった。