第9章 葛藤
「ああ……それはよかったな。だが生憎俺は、あんたの思惑通り動いてやるほど落ちぶれちゃいないッ!」
大倶利伽羅はかっと目を見開き、思い切り地を蹴り上げ廣光へと斬りかかる。だが廣光は全て彼の太刀筋が見えているかのように、葛籠を抱えたまま容易に避けてしまう。湯女は咄嗟に声を張り上げた。
「倶利伽羅っ! そいつは大倶利伽羅廣光……ある意味貴方自身でもあるわ! 油断しないでっ」
「……なるほど、そういうことか」
自分自身を目の前にしている、そう認識した途端大倶利伽羅の太刀筋が少し変化する。その瞬間、廣光は咄嗟に葛籠を放り出して自らも抜刀し刃を受け止めた。
「ほぉ……大倶利伽羅、貴様は長船の太刀筋も身につけているとでもいうのか? 面白い奴だ」
「……光忠の太刀筋は、嫌というほど見てきたからな。これくらい造作でもない」
「だが、本人には劣る」
廣光は力任せに大倶利伽羅の刃を薙ぎ払った。廣光は視線を彷徨わせれば、湯女が葛籠を手に出口へと走っていた。すると、廣光は懐から手鏡を取り出し叫ぶ。
「燭台切光忠、来い!!」
そうして手鏡を地に投げつけ、割れた瞬間金色の光が辺りを包む。大倶利伽羅が目を凝らしているその一瞬、何か鋭利なものが見えた気がして瞬時に身体を逸らした。