第8章 月光
『俺の霊力を持って、鏡を通してあんたを引き入れる。いいな? 集中しろ』
「わかったよ……それに従えばいいんだね。"廣光"」
「……! ひろ、みつ……?」
大倶利伽羅がぽつりと呟いた途端、淡い金色の光が辺りを包み込む。眩しさから目を閉じれば、次第に光が消え始め次に目を開けた時には燭台切の姿は何処にもなかった。畳の上に、もう何の気配も感じない手鏡だけが落ちていた。
それをそっと拾い上げて覗いてみるが、ただ自らの姿が映るのみでその他の鏡とたいして変わり映えはなさそうだった。大倶利伽羅が苛立ちを込めて、畳に叩き付けようとした時、別に気配を感じて大倶利伽羅は部屋と廊下を繋ぐ障子へと目を向けた。
「大倶利伽羅、その鏡を割ってはならない。唯一の手掛かりがなくなる」
「手掛かり……?」
大倶利伽羅が首を傾げる中、その場に現れたのは本丸に身を置く天下五剣三日月宗近だった。三日月は大倶利伽羅の手から鏡を取り上げると、興味深そうに表面を見つめた。
「また悪趣味な鏡だな」
「あんた……何しにきた」
「何、本丸内に不審な気配が立ち込めた故、様子を見に来てみたら既に気配はなく……あるのは興味深い鏡を今にも割ろうとするお前さんの姿」
「それを返せ……」
「言っただろう? これは唯一の手掛かりだ。我が主様はどうした? 伊達の刀よ」
「……っ、知らない。俺がここに来た時には既に姿は何処にもなかった」
三日月は「ふむ……」と口元に指を当てながら、鏡と大倶利伽羅を交互に見つめた。